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マツダスタジアムに学ぶ、これからのファンの姿と経営方針

 

こんにちは。丸選手の巨人移籍をまだ受け入れきれてないライターのアカツカです。

今回は、私の大好きなプロ野球チームである広島カープについて「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(以下、マツダスタジアム)と新しいファンの姿」という観点から、三連覇を果たすほどの強いチームとなった要因を探りたいと思います。

はじめに

私がこのような記事を書こうと思ったのには一つのきっかけがありました。ある番組で堀江貴文さんが「万年Bクラスだったチームが強くなった要因は、マツダスタジアムでしかない」と述べていました。詳しく解釈すると、「広島は、街中にスタジアムがある。「チームを強くして観客を呼ぶ」という考えもあるが、むしろ逆で、弱くても観客が来てくれるチーム作りや環境作りの方が大事。人気が出ればチームは必ず強くなる。そして雰囲気のいいマツダスタジアムは”スタジアムにいること”それ自体が価値になっている」というものです。ちなみに、カープの順位と観客動員数の推移は以下のようになっています。

(NPBのデータより作成:http://npb.jp/statistics/

マツダスタジアムの工夫

それでは、堀江貴文さんがここまで絶賛するマツダスタジアムとはどんな球場なのか紹介したいと思います。

まず、マツダスタジアムは広島駅から徒歩で行ける距離にあり、非常にアクセスが良い場所にあります。(どんな観光地よりも行きやすい!)街のど真ん中にあり、広島市民の暮らしに溶け込んでいるといえるでしょう。
また、カープは、マツダスタジアムを作るに際して、1990年代から球団職員を毎年アメリカに派遣し、球場視察などを行ってきました。その結果、メジャーリーグで取り入れられているアイデアがふんだんに生かされています。国内の他球団の本拠地球場は人工芝を敷いているところが多いのに対し、マツダスタジアムは内・外野ともに天然芝を敷きました。天然芝はクッション性に富むため、選手の体への負担が減り、よりダイナミックなプレーが見られるようになるとの考えたのです。
また、客席の種類の多さもその特徴で、プレーをより間近で味わえる「砂かぶり席」や、食事を楽しみながら観戦できるテーブル席にパーティーフロア、横になって観戦できる「寝ソベリア」などがあり、多彩な観戦スタイルを提供しました。試合を見ながら球場を周回できるコンコースも設けています。このように、野球観戦をゆったりと楽しめる環境、もっと言えばマツダスタジアムで自由に楽しめる環境を整えたことで、それまでターゲットにしてこなかった女性客など、新たなファンを取り込むことに成功しと考えられます。

(砂かぶり席↑:http://www.carp.co.jp/ticket/zaseki/ssk.shtml

 

(びっくりテラス↑:http://www.carp.co.jp/ticket/zaseki/bbq.shtml#bikkuri

 

(寝ソベリア↑:http://www.carp.co.jp/ticket/zaseki/sl.shtml

こうした工夫によりマツダスタジアムは「地元の球団のスタジアムに遊びに行く」という新たなプロ野球観戦のスタイルを確立しました。これはかつての「プロ野球はお父さんがテレビで巨人戦を観るもの」とは全然違う観戦スタイルです。

 

ボトムアップ型マーケティング

次に、マツダスタジアムのファン動員をマーケティングに関連させて考えたいと思います。
従来のマーケティング業界ではAIDMAという考え方が中心でした。

AIDMAとは、
顧客が商品に注意を向け(Attention)、興味を持ち(Interest)、欲求を抱き(Desire)、記憶に残り(Memory)、購入する(Action)というステップで意思決定が行われるという考え方です。

それに対して、丸の内グランドフォーラムの片平秀貴代表はAIDEESを提案しています。

AIDEESはAIDMAの後半の3つを、
経験すること(Experience)、感動・心酔すること(Enthusiasm)、共有すること(Share)に置き換えているのです。

これは、まさにマツダスタジアムでのカープファンの姿に重なるものと言えるでしょう(詳しくは次の章で述べます)。また、SNSによる情報発信が大きな力を持つようになった今日、既に片平さんが述べる現象は様々なところで起きています。分かりやすい例でいうと、口コミで人気が広がり、上映会場をどんどん広げていった映画「カメラを止めるな」や「この世界の片隅に」が挙げられます。

(↑ライト応援席)

カープファンの特徴

それでは、マツダスタジアムに集まるカープファンにはどのような特徴があるのか、もう少し詳しく見ていきましょう。明治大学商学部教授の水野誠さんによると、カープファンは巨人・阪神ファンより平均年齢が低く、ファン歴が短いことがわかっています。これは、比較的最近広島ファンになったという人が、巨人・阪神より多いことを意味しています。そして、水野さんはカープファンが球団に期待するものを巨人ファンと次の4つの要素において比較しています。

①競争(アゴン)…相手に勝利する喜び
②運(アレア)…偶然・不確実性の喜び
③模倣(ミミクリ)…形式・型に従う喜び
④目眩(イリンクス)…没我的な陶酔・恍惚

巨人ファンがプロ野球観戦でもっぱら期待するのは、競争に勝つことです。特に「大差で勝つ」ことや「最後に勝つ」ことを重視しています。広島ファンもまた、勝利を求めますが、その程度は巨人ファンほどではありません。その代わりに広島ファンに特徴的なのは、模倣や目眩に分類される要素を重視していることです。具体的には「選手の統率のとれたプレー」「選手とファンが一体となった感覚」「ファンが一体となり、共鳴した感覚」を巨人ファンよりも強く期待しているのです。後者の2つは、野球という競技から直接生じる価値ではなく、ファン自身が行う応援という派生的な行為から生じる価値です。堀江貴文さんが指摘する「スタジアムにいること自体が価値になっている」という話につながっていますね。観客を熱狂させるためにはもちろん勝つことが重要ですが、試合の勝敗は観客の手から離れたところで決まります。また、どんなに強いチームでも勝ち続けるということは不可能でしょう。一方で、一体となった応援に参加することから得られる模倣や目眩の感覚はファンにとって確実なものです。また、参加する仲間が増えれば増えるほど、経験を共有する喜びは倍増していくでしょう。

このように、ファンが価値作りに参加していることをマーケティングでは「価値共創」といいます。広島カープは12球団で唯一親会社を持たない市民球団であるため、広島のファンは「自分たちが価値作りに参加している」という意識が他球団と比べより強いように思います。1950年代に、経営に行き詰まった球団を救うために広島市民が行った「樽募金」はまさにそれを物語っているでしょう。
また、広島カープの選手育成を重視したチーム方針も「共創」の感覚につながると考えられます。入団前は決して有名ではなかった若手選手が成長していく姿に、「自分の応援が届いたんだ」と自分のことのように嬉しく感じているのです。

 

終わりに

今回はマツダスタジアムと広島ファンについて考察してきましたが、ボトムアップ型のマーケティングや「共創」の考え方は、様々な業種や組織にも応用して使えます。

この記事を読んでカープのことを少しでも知ってもらえたら嬉しいです。

※記事内で巨人や阪神について言及した部分がありますが、あくまでカープの比較対象として取り上げたものであり、それらのチームを批判するような意図は全くございませんのでご了承ください。

 


 

 


+YOUTH編集部 アカツカ